執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「手伝ってやってくれって、頼まれたからな」

『髪や体を洗うときに困るだろうから、手伝ってあげて』――杏樹の言葉を思い出し、まさかと蒼白になる。

「待ってください! ほら、見て。手は完治しています」

二週間も経てばだいたいの擦り傷は治る。すっかりよくなった手を哉明の前でひらひらさせると、彼は「でもなあ」と顎に手を添えて呻いた。

「美都に怪我を負わせたのは俺だ。世話をする責任がある」

こんなときだけ神妙な顔で呟くのだから悪い男だ。近づいてくる端正な顔に、思わず視線を逸らした。

「お世話は不要です。ひとりで洗えます」

「じゃあ単刀直入に言う。一緒に入ろう」

「……哉明さん、私と一緒に入っておもしろいです?」

そりゃあ杏樹のように豊満な体をしていれば楽しめるかもしれないが――そう思い尋ねてみると。

「おもしろい」

興味津々の顔ですっぱりと言い切られて、反論する気力も失せた。

「美都。新婚夫婦が一緒に風呂に入るのは、マグカップをペアで揃えるのと同じくらい日常的なことだぞ?」

< 245 / 257 >

この作品をシェア

pagetop