執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
かといって明るい場所で一緒にお風呂という選択肢もない。

「そのタオル、洗いにくくないか?」

「都度なんとかしますのでお気遣いなく」

美都はバスチェアに座らされ、哉明はそのうしろに立った。

怪我をした手の代わりという名目なので、一応、髪を洗ってくれるらしい。

固くて大きい手が頭皮を撫でる。思っていた以上に気持ちがよくて、杏樹に連れていかれた美容室のヘッドスパを思い出す。

アロマトリートメントのジャスミンがふんわりと香る。

「お客様ー。どこか気になるところはございませんか」

哉明がどこかふてぶてしい美容師を演じる。一応美都も客のつもりで「大丈夫です」と返事をした。

シャワーで髪を丁寧に洗い流し、終わり――かと思いきや、おもむろに首筋に手を伸ばし指先を滑らせた。

「美都は首が細いよなあ」

「え? 普通です」

「俺にとっては普通じゃない、細くて、白くて、かみつきたくなる首だ」

シャワーを手にしたまま、哉明は美都の首筋にかぶりつく。

「ひゃっっ! ちょっと哉明さん、吸血鬼みたいなこと!」

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