執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
第二章 キスの許可を
私立の中学校に電車通学していた美都は、卒業を控えた二月のある日、痴漢に遭遇した。

ぎゅうぎゅうの満員電車の中で、背後の男がスカートの中に手を差し入れてきてのだ。太ももを這い上がってくる指先の感触。あまりの恐怖に硬直した。

どうすればいいのだろう。「痴漢です」と悲鳴をあげればいいだろうか?

だが果たしてこの状況で、声をあげる勇気を持つ女性がどれだけいるだろう。

痴漢はすぐ背後にいる。逃げ場などない。怒った痴漢に暴力を振るわれるかもしれないし、濡れ衣だと逆ギレされるかもしれない。

八方塞がりになっていた、そのとき。

『おい』

鋭い声とともに、痴漢の手が離れていった。

見れば横に立っていた長身の青年が、背後の男の手を捻り上げていた。

『な、なんだよ! 痛ぇじゃねえか!』

叫んだのはパーカーを着た五十代くらいの男。

すると青年は男をぎろりとひと睨みし『痴漢していただろ』と低い声で詰問する。

『証拠はあんのかよ! むしろ、てめえを名誉棄損で訴えてやってもいいんだぞ!』

逆ギレした男が青年を責め始める。

自分のせいで青年が訴えられてしまう。黙って見てはいられない。

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