執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
美都は勇気を振り絞り『……私、痴漢されました』と声をあげる。

恐怖と恥ずかしさと安堵と、あらゆる感情が溢れ出し涙となってこぼれ落ちてきた。

隣にいたご婦人が『かわいそうに』と言って美都の肩をさすってくれる。

すると、正面に座っていた気弱そうな女性も美都の味方をしてくれた。『私も痴漢しているところを見ました』と小さく手を上げる。

周囲の冷ややかな目が男に突き刺さり、男は『やってねえよ!』と暴れ始める。

こうなると車内は軽いパニックだ。近くにいた男性たちが複数人で男を取り押さえ、次の駅で引きずり降ろし、駅員に引き渡した。

身柄を拘束され、観念したのか、あるいは開き直ったのか、男は美都に向かって大声で叫んだ。

『覚えとけよ! その顔、忘れねえからな!』

ゾッと背筋が冷え、喉の奥がひゅっと鳴った。

痴漢にどれくらいの刑罰が適用されるのか、美都は知らない。

罰金だろうか、禁固刑だろうか。あの男に前科があるかによっても変わってくるだろう。

だがもし、あの男がすぐに釈放されて、またこの車両に乗ってきたなら。美都に恨みを持っていて、復讐しようと企んでいたら――。

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