執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
また痴漢をされるかもしれない。触られる程度で済めばいいが、逆恨みから暴力を振るわれる可能性もある。

そのとき、また近くに助けてくれる人がいるとは限らない。

あまりの恐怖に愕然とした。これから卒業までの一カ月間、毎朝この恐怖と闘わなければならないのか。

親に助けを求めるとか、時間や車両を変えて通学するとか、考えればやり方はいろいろあったのかもしれないが、まだ中学三年生の美都はそこまで頭が回らない。

恐怖に絡めとられ震えていると、助けてくれた青年が隣にやってきて、ぼそりと呟いた。

『俺は毎朝、この車両にいるから』

ハッとして顔を上げる。

毎朝この時間に、この車両に乗れば、助けを求められる人がいる。

暗闇の中に光が差した気がした。

それから美都と青年は、駅事務室でそれぞれ事情を聞かれた。

鉄道警察の職員と青年の会話が聞こえてくる。

『獅子峰哉明。帝東大学の三年生です』

『帝東大学かあ、頭がいいんだねえ。将来は官僚かな?』

『警察官を目指しています』

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