この結婚は運命ですか?~エリート警視正は清く正しい能面女子に首ったけ~
第一章 とりあえず婚約しよう


リビングのローテーブルに置かれているのは、革のブックカバー。

一見すると喫茶店のメニュー表にも見えるそれの中身は釣書だ。

仰々しい装丁を見るに、今回はまた随分と格式高い家柄の男性と縁談を取りつけてきたようだ。

「お義母さん。もう縁談を持ってくるのはやめてください」

美都はソファに浅く腰掛け、背筋を伸ばしながら、丁寧に告げた。

その声に感情はこもっていない。ただ淡々と、冷静に、事実を伝えただけ。

礼儀正しい言葉遣いは、相手が気兼ねする義母だから――というわけではない。

美都にはこれが平常運転なのである。

「そんなこと言わないで。私、美都ちゃんには絶っっ対、幸せになってほしいの!」

そう言って正面のソファに前のめりで座り、目を輝かせている義母――喜咲杏樹の方も、素である。

なんの打算も邪心もなく、心から美都を大事に思っている。

少々ぶりっことも言えなくもない口調は、良家の出だからかもしれない。

社会では生きていけないタイプの、筋金入りのお嬢様である。

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