執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
警察官にあるまじき台詞に美都は呆れかえった。物理的な距離のことを言ったわけじゃないのだが。

「キスでその気にさせる」

「キス程度でその気になるような薄っぺらい女じゃありません」

しかし、哉明は美都の手を取ったまま、部屋の中央にあるソファに向かった。

腰を屈めて美都の太ももの裏に手を差し入れると、体をひょいっと持ち上げ、ソファに寝かせる。

「ひゃあっ!」

「このソファ、広くていいだろう。俺が寝転んでも余裕だし、なにより革の手触りがいい」

軽口を叩きながら哉明が覆い被さってくる。

「ソファはっ……いいですけどっ」

座り心地どうこうを論じている状況ではない。

哉明の精悍な顔がゆっくりと近づいてくる。距離が縮まるにつれ上昇する体温、ばくばくとうるさい心拍に、今にも爆発しそうな心臓。

キスされる――しかしそう思った直後、哉明の顔が吐息のかかるところでぴたりと止まった。

「……許可をくれ。でないと、俺は手を出せない」

驚いて瞬きを繰り返す。ああ、と美都は彼の言葉を思い出し、納得した。

『現役警察官が女性を家に連れ込んで無理やりどうこうなんてするわけないだろ』

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