執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
手を出さないでくれているのは、約束のためか。あるいは警察官としてのプライドか。

美都は毅然と言い放つ。

「……私がイエスと言うような女なら、あなたのパートナーに相応しくないでしょう?」

付き合ってもない男性にキスを許したら、品行方正な女性とは言えない。哉明の妻には相応しくない。

すると、彼はじっと美都を見つめたあと、口もとを緩めた。

「参った。降参だ」

ゆっくりと体をどけると、美都の手を引いて起き上がらせる。距離を取る哉明の目はどこか寂しそうだ。

(約束通り、なにもされなかった……)

大きく深呼吸しながら、胸に手を当てて鼓動を鎮める。なんとかキスは回避できた。

……しかし、安堵しているはずなのに切ないとも感じてしまうのはどうしてだろう。

哉明が正面のソファにどっかりと座り込む。その寂しげな表情を見ていると、胸が痛んできた。

(今度こそ、傷つけてしまった?)

彼が嫌いなわけでも、傷つけたかったわけでもない。

ならどうすればよかったのか。……その答えは美都にはわからない。

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