執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
(今さらフォローしても遅い。嫌がったのは私なんだから……)

しかし、悲しい顔をされると落ち着かない。そんな顔をさせたのは、拒んだ美都にほかならないのだ。罪悪感が募る。

(もしもこのまま彼と別れて、縁談が白紙になったら――)

哉明の存在はただの思い出になる。幼い頃に助けてもらったことも、生まれて初めてプロポーズされたことも。

それは少し寂しい気がして、思わず口走った。

「――ですが、あなたの言う通り、私にも結婚するメリットはありますし」

「……美都?」

顔を上げた哉明は、珍しく意表を突かれた顔をしていた。

「条件が好ましいのは確かです。獅子峰さんは私の恩人で尊敬もしている。信頼もしています。正直、私にはもったいない方だと思っています」

今ここで哉明の手を取らなければ、美都は一生、信頼できる男性に出会えないかもしれない。

冷静に考えれば〝結婚しないメリット〟より〝結婚するメリット〟の方が随分と大きい気がした。

「まずは婚約、でいいんですよね?」

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