執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
美都はあとに引けなくなったことにようやく気づき、早まったかもしれないと後悔した。

哉明が帰ったあと。娘の婚約が決まった安堵と寂しさから、いまだ魂が抜けている隼都をよそに、杏樹は美都を呼び出した。

「いい、美都ちゃん? 男心を掴むコツを伝授するから、よーく覚えていて。まずは家事についてだけど――」

語り始めた杏樹の言葉を、一応頭の片隅に置きながら、ひっそりとため息をつく。

(無理に気に入ってもらおうとは考えていないのだけれど……)

うまくいかなければそれはそれ、結婚しなければいいだけだ。

(……とはいえ、共同生活をするわけだし、礼儀を欠くのはよくない)

見知らぬ他人同士がともに暮らすのだ。我を通しすぎては破綻するのが目に見えている。

「……お義母さんは、お父さんに気を使っていますか?」

不意に尋ねると、杏樹は驚いた顔で言葉を止めた。

「そうやって好きな人に合わせて生活するのは、大変ではないですか? 毎日それだと疲れません?」

美都の純粋な質問に、やや間を置いて、杏樹は笑みを浮かべた。

< 60 / 257 >

この作品をシェア

pagetop