執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
「迷惑でしたら作りませんが、迷惑でなければ作ります。もともと自炊する予定でしたし、一人分でも二人分でも手間は変わりませんから」

「迷惑では、ない」

「でしたら作ります。……私自身の負担にならない程度に」

最後のひと言に安堵したのか、哉明はふっと笑みをこぼして「聞き分けがいいな」と漏らした。

私に頑張ってもらっても彼は嬉しくないだろう。恩着せがましくされても困るはず。ほどほどに持ちつ持たれつやっていこう――彼はきっとそう思っている。

「今夜の食事はなにか考えていますか?」

「デリバリーで済まそうと思ってた」

「食材があれば、適当に作りますが」

紅茶をマグに注いでくれている哉明の横で、美都は冷蔵庫を開けた。

見事に食材がなくて、「おお……」と言う呟きが漏れる。これが独身男性の冷蔵庫かあとしみじみ納得する。

「あとで買い物に行ってきます。朝食の材料も欲しいですし。近くにスーパーはありますか?」

「ああ。付き合うよ」

「ひとりでも大丈夫ですよ」

「結構な荷物になるんじゃないのか?」

哉明が紅茶の入ったマグふたつをリビングのローテーブルに運びながら言う。

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