執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
確かに……と美都は天井を仰ぐ。冷蔵庫を見た限り、バターやソース、ケチャップ、マヨネーズ、味噌など、基本的な調味料が揃っていなかった。

和食の味付けで重要な醤油、みりん、日本酒の三点セットもないと思われる。最悪、塩や砂糖もないだろう。すべて揃えると、結構な重量になりそうだ。

「手を貸してもらえると助かります」

「素直でよろしいな」

「哉明さんは、面倒見がいいんですね」

「これくらいは。運命の女性にいきなり逃げられても困る」

まだそんなことを言うのか。美都は呆れつつもソファに座り、マグを口に運ぶ。

「……非常においしいです」

さすが杏樹が気合いを入れてチョイスしただけのことはある。今まで飲んだ紅茶の中で、ベストスリーに入る香りの豊かさだ。

ひっそりと感動していると、哉明が膝に肘をついて、まじまじと美都を覗き込んだ。

「美都は、あまり笑わないな」

マグを持つ手が止まる。

「……愛想が悪くて申し訳ありません」

「いや。ちょうどいい。むしろ助かる」

姿勢を戻すと、彼も紅茶のマグに手を伸ばした。

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