執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
とくに料理については、杏樹と一緒にキッチンに立つうちに、自然と腕が上がった。手は抜いたが、それなりにおいしく食べられるはずだ。

哉明が美都の顔をまじまじと見つめる。

「無理、してないか」

「いえ、全然。無理をしないために手を抜きましたから」

スンとして答えると、きっと瞬きの回数が増えなかったのだろう、哉明は大人しく納得し「いただきます」と箸を取った。

ハンバーグをひと口食べて、二、三回咀嚼し「うますぎる。天才か」と呟く。

「褒めてもなにも出ません」

「日々の料理は出てくるんだろ?」

「けなされても出しますけどね」

むしろ「まずい」と言われた方がムキになって出すかもしれない。

「美都を乗りこなすのは難しそうだ」

くつくつと喉の奥で笑みを漏らしながら、満足そうにハンバーグを頬張る哉明。

(まあ、おいしいと言われて悪い気はしないけれど)

こっそりと美都の口もとが緩んだのを、哉明は気づいているのかいないのか。

ふたりは淡々とハンバーグを完食した。



お風呂から上がったあと。美都は自室でアイロンがけを始めた。

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