執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
その男性の情報を根掘り葉掘り聞いてくる可能性もある。同僚などと言えば、職場で待ち伏せされかねない。妙な気を起こされない相手でなければ。

絶対に会えない、会おうとも考えない、雲の上の人が好ましい。

数秒悩んだ末、美都は決意し切り出した。

「……実は、ずっと憧れている男性がいるんです」

「まあ! そうならそうと早く言ってくれればいいのに」

杏樹が驚いた顔で美都の肩を抱く。リビングへ戻りながら「詳しく聞かせて」と神妙な面持ちで説明を待った。

「……その、言いにくい話ではありまですが。実は私、中学三年生の頃に痴漢に遭ったことがありまして」

実話である。杏樹は口を手で覆い、心底傷ついた顔をした。打ち明けたことを少々後悔する。

「そのとき、助けてくれた人なんです」

まだ中学生だった美都は、痴漢相手にどう対処していいかわからず、とにかく怯えるしかなかった。

そんな中、助けてくれたその男性はいわばヒーロー。その上、見た目もいいとくれば、軽率に恋に落ちるのは必然だ。

とはいえ、まだまだ中学生で恋愛にも疎かった美都にとって、その感情は恋ではなく、憧れで処理された。

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