執着心強めな警視正はカタブツ政略妻を激愛で逃がさない
無視して一礼すると、哉明はくすりと笑い、美都の腰に手を伸ばしてきた。

あっと思う間もなく引き寄せられ、唇を奪われる。一瞬だけ、でもしっかりと重なって、抵抗する前に離れていった。

「っ、哉明さん! きゅ、急にそういうこと……!」

「急にしたくなったんだから仕方ないだろ」

悪びれもせず、わざとらしく肩を竦める。

「メイクをしたあとじゃ、いってらっしゃいのキスもできなくなる。今しかなかったんだ」

そう勝手に言い残して自室に戻っていく。

「って、思いっきり計画的犯行じゃない……」

急にしたくなったなんて言いながらも、キスできるタイミングを綿密に計っていた。

(どういうつもりでこんなことを……)

今さらドキドキが押し寄せてくる。唇だけではなく、腰に回る腕の感触や、近づいてくる端正な顔も、あらゆる記憶が美都の胸を締めつける。

哉明もこうやって、美都を思い出しては鼓動を高鳴らせているのだろうか。

それとも、もう頭を切り替えて仕事のことを考えている?

(きっとそう。……なんだか不公平だわ)

そう思うと余計に苦しくなってくる。だが、やはりこの苦しみを味わっているのも美都だけなのだろう。

なかなか収まりのつかない左胸を押さえながら、自室にこもって出かける準備をした。



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