転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
そんなリリアーナを見て、俺は正直不安になった。リリアーナは自分の役割を理解しているのだろうかと。
伯爵家の令嬢としてぬくぬくと育てられてきたリリアーナに、瘴気に当てられた魔物を見たことすらない妹に、瘴気を浄化するなどという大役が務まるものだろうか、と。
(まぁ、実際は務まるんだろうけどな。何せヒロインだし。――でも……俺はできるだけリリアーナを危険な目には合わせたくない。こんなに俺に懐いてくれているリリアーナに、ラスボスと化した俺を殺させるなんて嫌だし、殺されるのもまっぴらごめんだ)
「……お兄さま? 怖い顔してどうなさったの?」
「いや、何でもない。それよりリリアーナ。いくらユリシーズが勝手知ったる相手だからって、挨拶はおろそかにしたらいけないだろ。あと、走るのも駄目だ」
「あら、いけない。わたしったらつい」
リリアーナは顔を赤らめて、ユリシーズに向き直る。
「ごきげんよう、ユリシーズ様。今日もお兄さまのわがままに付き合ってくださってありがとう」
「うん。僕も君が健やかなようで嬉しいよ」
「ユリシーズ様、まだお時間ございますか? よろしければお茶をご一緒に。今日のプディングは自信作ですの。ユリシーズ様にもぜひ召し上がっていただきたいですわ」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になろうかな」
リリアーナの申し出に、さっきまでどことなく暗かったユリシーズの顔が明るくなる。
(若干気になるワードはあったが……流石リリアーナ。悪意なく聞こえるのは凄いな)
俺はそんなことを思いながら、二人と共に東屋へ向かった。