転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 ◇


 ロイドの足取りに迷いはなかった。
 一寸先は闇――そんな言葉がぴったりの坑道内を、少しの躊躇いもなく全速力で駆けていく。

 その迷いのなさに俺は改めて驚かされたが、それよりももっと驚いたのは、ロイドの足の速さだった。
 人一人背負っているとは思えない駆け足で、ロイドは先へと突き進むのだ。その速度は、万全状態の俺とほぼ変わらないほど。

「おまっ……スピード……速ッ……!」
「口は閉じてた方がいいよ。舌、噛むから」
「……ッ」

 まるで忍者か暗殺者でもあるかのような、訓練された者の走り方。
 鍛えているってだけじゃない、ロイドにはもっと特別な何かがあるような気がする。
 そんな印象を、俺はロイドに抱いた。

(こいつ……本当に何者なんだ?)

 性格は色々とマズいが、能力的にはチートと呼ぶに相応(ふさわ)しい。サミュエルやセシル、グレンに並ぶ強者(つわもの)だ。
 それにこのルックス。年齢的に幼いために攻略対象者には入らなかったのかもしれないが……ただのモブキャラにしては出来すぎている。

 ――ロイドの背中の上でそんなことを考えていると、不意にロイドが声を上げた。
「あっ、見つかった」――と。


 瞬間、俺の思考は一気に現実に引き戻される。
 見つかった――その言葉が、いい意味でないことを理解して。

「おい、それはいったいどういう意味だ!?」

 怒鳴るように問うと、平然と答えるロイド。

「そのままの意味だよ。大蛇が聖女さまたちを見つけたってこと」
「そんな! じゃあもう出くわしたってことか!?」
「さあ? そこまではわからない」
「――っ、とにかく急いでくれ……!」
「無茶言うなぁ」

 俺の命令にも近い口調にロイドはぼそりと呟いて、けれどわずかながら速度を上げた。

 だがそれも束の間、坑道の奥から突如として響き渡る甲高い悲鳴。
 閉鎖されたこの空間で反響し、こだましたしたその声は――聞き間違えるはずのない、リリアーナの声だった。


「……ッ!」


 ――ああ……間に合わなかった。


 頭が真っ白になる。喉を絞め付けられているかのように苦しくなる。

 アレクの記憶の中の――蛇を目の当たりにして倒れたリリアーナの姿が蘇って――俺は、全身から血の気が引くのを感じた。

 だがそれでも、俺は前に進み続ける。ロイドに背負われて――その場所へと、辿り着く。
< 101 / 148 >

この作品をシェア

pagetop