転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

「アレク、痛いところはない!? 苦しいところは!?」

 その必死の形相に、俺は瞬時に冷静さを取り戻す。
 それは、セシルの動揺した顔を見たときと同じように。

「いや……大丈夫だ。痛くも苦しくもない。寧ろよく寝たーって感じだけど――もしかして俺、結構まずい状態だったのか?」

 緊張感なく問い返すと、ユリシーズの目がこれでもかというほど大きく見開く。
 そして、「はあっ」と大きく息を吐いた。

 ユリシーズは俺の両肩から手を放し、ベッド横の椅子にフラフラと腰を下ろす。

「良かった。その様子なら本当に大丈夫そうだね。君、三日も眠りっぱなしだったんだよ。呼んでも揺さぶっても全然起きなくて……流石に、心配した」
「それ、何の冗談だ?」
「この状況で冗談なんて言うわけないだろ。足はマリアが治したし、リリアーナも治癒魔法をかけたんだ。でも何をしても起きなくて……医者に診せても眠ってるだけだって言うし……本当……このまま目が覚めなかったら……どうしようかと」

 ユリシーズは項垂(うなだ)れて、再び深く息を吐く。
 本当に心配させてしまったのだろう。ユリシーズの声が、安堵に震えていた。

「ユリシーズ……」

 ――俺も、坑道でユリシーズが怪我をしたときは本当に恐ろしかった。
 ユリシーズが死んでしまう可能性を思うと、足がすくんで動けなくなりそうだった。何もできない自分が歯がゆくて仕方なかった。弱い自分を責めて、罪悪感で心が潰れるかと思った。

 それと同じ思いをこいつにもさせてしまったのかと思うと、俺はそれだけで申し訳なくなる。――だから。

「……悪い。心配かけた」

 俺が謝ると、ユリシーズはびくりと肩を揺らした。
 そうして数秒の沈黙の後、「うん」と小さく呟く。


 そうして再びユリシーズが顔を上げたとき、そこにあるのは俺のよく知る優しい笑顔だった。
 俺はその微笑みに、何の確証もなかったけれど……ただなんとなく、「もう大丈夫だ」と、そんな気がした。
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