転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 ◇◇◇


「――ン。……うっま」

 リリアーナの焼いたプディングを口に入れた俺は、そのあまりの美味しさに打ち震えた。

 プディングとは、卵、牛乳、砂糖のみで作られたシンプルな菓子だが、だからこそ一切の誤魔化しがきかない。
 それをここまで美味しく作るとなると、かなりの腕が求められるというもの。

(なんだこれ……プロかよ)

 美味い。――美味すぎる。
 どうやらリリアーナはまた腕を上げたらしい。前世母親が通っていた有名パティシエ店の味に匹敵するレベルだ。

 ユリシーズもその出来に驚いたようで、「これ、本当に美味しいよ」と呟いて、二口目、三口目……と口に運んでいく。
 マナーを重視し、食事中の会話を欠かさないユリシーズが無言で食べている様子を見るに、本当に感動しているのだろう。

(わかる。わかるぞ……。本当い美味いもんな、このプディング)

 俺が小皿に乗った残りを二口でたいらげると、リリアーナは嬉しそに笑う。

「お気に召したようで何よりですわ。お兄さまのために沢山練習しましたの」
「ああ、本当に美味しいよ」

 アレクの記憶の中のリリアーナの初めてのお菓子作りは過程も結果も散々だった。
 オーブンから煙を出し火事だ何だと大騒ぎになり、出来上がったものは当然炭……どころか灰と化し、リリアーナはショックのあまり大泣き。慰めるのに五時間も要した。

(それがここまで上手くなるとは。本当に努力したんだな、リリアーナ)

 プディングのおかわりを食べながら、俺は感傷に浸る。
 ――が、その時間は長く続かなかった。
 何の前触れもなしに、リリアーナがこんなことを言ったからだ。

「次にお兄さまにプディングを食べてもらえるのは、いつになるかしら」――と。
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