転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

23.特訓開始?

 翌日の午前十時、俺たちは辺境伯屋敷の訓練場を借りてさっそく特訓を開始した。
 ――たち、というのは、せっかくだからユリシーズも一緒にやろうという話になったからだ。


「それで、まずは何をすればいいんだ?」


 四方を高い壁で囲まれた、だだっ広い訓練場。
 その隅で、俺とユリシーズはロイドに教えを乞う。

「そうだなぁ。とりあえずは二人の今の正確な実力を知りたいかな。ひとまず走り込みで基礎体力を確認して、それから短距離の全力疾走、それが終わったら僕と剣で打ち合い。それから魔力量の測定と魔法の実践……かな」

 ――なるほど。魔法云々以外の内容は、以前俺とユリシーズがやっていたことと変わらない。
 もっと飛び跳ねたりさせられるのかと思ったが、そういうわけではないようだ。

 俺とユリシーズはロイドの指示通り、訓練場の内周を走り始める。
 ロイドはそんな俺たちを、どこから持ち出してきたのか木箱的なものに座りながら、退屈そうな顔で眺めていた。(途中何度か大きなあくびをしたのを、俺は見逃さなかった)

 何周かしたところで「もういいよー」と声がして、次は短距離走に移る。
 ロイドの「よーいドーン」というやる気のない声でスタートした俺たちは、全速力で訓練場を駆け抜け、反対側の壁にタッチした。
 ちなみに、順位は俺が先だった。

 それが終わると、今度は打ち合い。
 俺とロイドは模造刀を構え、対峙する。――するとようやくロイドの目に生気が戻ってきた。

 そんなロイドの姿に、本当にこいつは退屈が嫌いなんだなと、俺は改めて理解する。


「それで、普通に打ち込めばいいのか?」

 俺が尋ねると、ロイドはニヤリと微笑み、模造刀を逆手に握り直した。
 その剣先で、自身を中心にして地面に半径一メートルの円を描き始める。

「何だ? その円」
「普通にやったらすぐに決着がついちゃってつまらないからね。ハンデを付けようと思って」
「ハンデ?」
「そう。僕はこの円の中でしか動けない。僕の足を一歩でも円の外側に出すことができれば、君の勝ち」
「……そりゃ……随分なハンデだな」
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