転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 もしやこいつはわかっていないのだろうか。

 俺の身長は百八十センチ。そこに剣の長さを合わせると、リーチは二百六十センチを超える。
 つまり、俺が焦って円に近付きすぎさえしなければ、ロイドの剣が俺の首に届くことはない。
 とは言え油断は禁物だ。ロイドは相当な強者(つわもの)なはずなのだから。

 俺は剣を構え直す。
 そしてユリシーズの試合開始の合図と共に――地面を蹴った。


(まずは正面からだ――!)

 俺は円から一メートル以上離れた位置から、円の中心に立つロイドに斬りかかった。
 左から右へ横一線に。だが当然、ロイドはいとも簡単にそれを防ぐ。

 とは言えそれは予想通り。俺は次の攻撃に移る。

 身体を半回転させ、さっきとは逆側から斬りかかった。できるだけ速く、正確に、連続で攻撃を繰り返す。
 右、左、右――そして、また右。

(ああ……やっぱりこいつ、強い……!)

 一応俺だって、貴族の(たしな)みとしてそれなりに訓練を受けてきた。

 グレンのような本業相手には敵わなくても、魔物相手には手間取っても、その辺の暴漢なら数人を一人で相手にできる自信がある。

 人体のどこを狙うべきかも、攻撃を弾かれたときのバランスの取り直し方も、勿論防御の仕方だって、アレクの身体がきっりちと覚えているのだ。

 ――それなのに、ロイドは少しも動じない。
 魔法で身体を強化しているのか知らないが、俺の攻撃をいとも簡単に防いでしまうのだ。


「やっぱ凄いよ、お前」

 攻撃を繰り出しながら、俺はロイドを賞賛する。
 たとえ魔法を使っていようが、それをひっくるめてこいつの実力だ。

 だが、俺だって簡単に負けるわけにはいかない。
 俺は一か八か、円の外五十センチのところまで踏み込んだ。

 この位置なら、円内全てが俺の間合いになる。
 それは同時にロイドの間合いでもあるということだが、腕は俺の方が長い。
 判断さえ謝らなければ、攻撃されても十分避けられる。何てったってロイドは円から出られないのだから。

 俺は今度こそロイドを仕留めようと、至近距離で剣を振るった。
 円の内側全てを攻撃範囲とする為、左から右へ一気に剣を薙ぎ払う。全ての体重をかけ、力技でロイドを円の外へはじき出そうと――だが。

 仕留めた――そう思ったのも束の間、なんとロイドの姿が視界から消えたのだ。
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