転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

24.魔力の巡り

 ――魔力が身体を巡っていない。

 俺はロイドのその言葉の意味がわからず、困惑する。

 そもそも論だが、俺は魔力というものが何なのか今だによくわかっていない。
 ユリシーズから、魔力は体内で生成されるものと聞いてはいるけれど、それだけだ。

 だから、魔力はあるのに巡ってない――などと言われても、何のことやら状態なわけで。

 するとそんな俺の心の声を代弁するかのように、背後からユリシーズの声がした。

「今の、どういう意味?」

 その声に顔を振り向くと、ユリシーズが睨むような顔でロイドを見据えている。

「魔力が巡っていないって……そのせいでアレクは目が覚めなかったって、どういうことかな? 僕はそんな話、一度も聞いたことがない」

 ユリシーズのその声は、いつになく低く――。

(こいつ……怒ってる……?)

 ああ、間違いない。
 ユリシーズは怒っている。その理由はわからないけれど。

 口を出せる雰囲気じゃないなと空気を呼んだ俺は、ロイドの手を今度こそ振り払い、そこから一歩後退った。
 するとロイドは不満そうな顔で俺を一瞥(いちべつ)して、ユリシーズの方を向く。

「そのままの意味だよ。人は皆、多かれ少なかれ体内に魔力を巡らせている。魔法が使えない者も、誰一人例外なくね。でもアレクの場合、魔力は十分あるのにも関わらず、その流れが滞っているんだ」

 ロイドの言葉を聞いて、大きく眉をひそめるユリシーズ。
 それだけでは何もわからない……そう言いたげに。

「その話……もっと詳しく聞かせてくれる? 魔力が身体に上手く巡っていないと、具体的にどんな影響があるのか」

 ロイドを睨むようなユリシーズの眼差し。
 その視線に、ロイドは小さく息を吐く。

「そう言われても、僕もアレクのようなケースは初めてだから詳しくはわからないよ。ただ、体内で生み出された魔力は魔法を使うためだけじゃなく、怪我や病気の治りを助けたり瘴気の解毒を早めたりするのにも使われている。それが上手く巡らないってことは、身体の不調を治すための時間が長く必要になるってことだ」
「だからアレクは、三日間も目覚めなかったっていうの?」
「多分だけどね。鉱山は瘴気でいっぱいだったから、きっと吸いすぎで身体に負荷がかかったんだと思う。聖女さまが治癒魔法を施してなければ、もっと長く眠っていたかも」
「……ッ」

 まさかの内容に、言葉を失うユリシーズ。
 もちろん俺も驚いているが……いかんせん、あまりにも突然すぎて、正直どんな反応をすればいいのかわからない。
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