転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
 ◇


 その夜、真夜中を過ぎ皆が寝静まった頃、俺は辺境伯の屋敷のバルコニーから、一人星空を見上げていた。

 辺境伯の屋敷は小高い丘の上に建っていて街全体が見渡せるのだが、この時間になると街はすっかり闇に溶け、夜空に浮かぶ月と、(きら)めく星々だけの景色になる。

 まるでプラネタリウムのような、作り物とも思えるような、明るく輝く沢山の星々。

 そんな美しい夜空を眺め……俺は、一人溜め息をつく。


「……どうすっかなぁ」


 俺は、正直落ち込んでいた。

 五日前、特訓を始める前は、全てが上手くいくと思っていた。
 才能に溢れたロイドに教えを乞えば、強くなれると信じていた。

 けれど、現実はそう甘くはなかった。

 ロイドだって万能ではない。そもそも、年齢で言えばまだまだ子供。
 才能のあるユリシーズはめきめきと実力を伸ばしているが、俺の身体についてどうにかしてくれと願ったのは、荷が重すぎたのかもしれない。

 今日もロイドの態度はいつもと変わらず軽薄だったが、それでも初日に比べると、考え込む時間が増えてきた。

 俺と目が合うとすぐに頬を緩めるのだが……ああいう性格のロイドでも、多少の焦りを感じているのだろう。


「……ほんと……情けねぇな……俺」

 あんな子供に頼らないと何もできないなんて……。

 俺は自分の無力さに打ちひしがれながら、しばらくの間、ボーっと夜空を眺めていた。

 すると、どれくらい時間が経った頃だろうか。部屋の扉がノックされ、「入るよ」と声がする。
 それはユリシーズの声だった。

 けれど、なんとなく話したくなかった俺は、良くないことだと思いつつも無視を決め込む。
 ――が、結局扉は開き、ユリシーズは部屋に入ってきた。

 ユリシーズはバルコニーに立つ俺の姿に気付き、静かに呟く。

「やっぱり、まだ起きてた」

 その言葉に大きな意味はなかっただろう。
 なかっただろうけど……俺は、どうしても言葉を返せずに、ユリシーズに背を向けた。
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