転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜


 ふと気が付くと、いつの間にかユリシーズが俺の隣に並んでいた。
 ユリシーズは手すりに背を預け、星空を見上げている。

「ねぇ、アレク」
「…………何だよ」

 流石にこの距離で無視というわけにもいかず、俺は一応返事をする。
 いったい何の話だろうか……ま、何でもいいけど。と、投げやりな気持ちで。

 するとユリシーズは数秒沈黙したあと、静かな声でこう言った。

「もう……やめない?」――と。

「…………は?」

 その言葉に、俺は咄嗟に顔を上げる。

「特訓、もうやめない?」
「――ッ」

 繰り返された言葉に、俺はまるで心臓にナイフを突き立てられたかのように、途端に息ができなくなった。

「こんなこと言われたくないってわかってる。君に嫌われる覚悟で言ってる。でも言わせてほしい。君はもう十分頑張った。だから、もうやめて王都に帰ろう? 聖下の庇護下にある王都にいれば、君の命が危険にさらされることはない。それに……君がいなくても、リリアーナは大丈夫だよ」
「……っ」

 ――君がいなくても、リリアーナは大丈夫。

 それは、俺に対する戦力外通告だった。

 俺が決して言われたくなかった言葉。
 認めたくなかった言葉。

 それを……他でもないユリシーズが口にした。
 いや……違う。俺が言わせてしまったのだ。

 言いたくもない言葉を……言わせてしまったのだ。
 何よりも、俺の命を優先するために……。

 ――だが、それでも。

 頷くわけにはいかなかった。「わかった」と言うわけにはいかなかった。
 
 なぜなら、もし今ユリシーズの言う通り王都に戻ってしまったら、俺にはきっとバッドエンドが待っている。
 何一つ変えられないまま、最後にはゲームのシナリオ通りリリアーナに殺されることになるだろう。

 それだけは絶対に嫌だった。
 俺は、リリアーナに俺を殺させたくはない。――たとえリリアーナと旅を続けられなくとも、何の収穫もないまま王都に戻ることはできない。

 リリアーナと別の道を歩もうとも、現状を打破するために全力を投じねばならない。
 決して諦めてはならない。

 それだけは……決まっている。
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