転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜


「お前の気持ちは嬉しいけど、俺は帰らない。リリアーナのこと抜きにして……俺は、俺自身のためにこの身体を治したいんだ」
「…………」
「ごめんな」

 俺が謝ると、ユリシーズは俺に一歩も引く気がないことを悟ったのだろう。
 それ以上は何も言わず、けれど納得はしていない様子で、部屋から出て行った。

 俺はその背中を見送り、再び眼下の街を見下ろす。
 そして、今しがたユリシーズに言われた内容について考えた。

 実際問題、俺の身体はあと数日で何とかできるようなものではない。
 俺の今の魔法では魔力を消費しきるには至らないし、それができなければロイドの力を借りることもできない。

 ロイドに治してもらわなければ、俺はラスボスへの道を進むことになってしまう。
 そうなれば、その先に待つのは"死"だけだ。

 だがそこまで考えて、俺はふと気が付いた。

 俺の運命がリリアーナに殺されることだと言うのなら、逆に言えば、俺はリリアーナに殺されるまで死なないということになるのではないか?
 自殺なんかは別にして、リリアーナや攻略対象者の関わらないところでは、俺に死亡フラグは立たないのではないか?

 ――だとしたら……。


「……なんだよ、もっと早く気付けばよかった」


 絶対的な保証はないけれど、それでも試す価値はある。
 たとえ失敗しても、きっと死ぬほどのことにはなるまい。

(そうと決まれば善は急げだ)

 もしユリシーズに知られれば、絶対に止められてしまうだろうから。
 今夜のうちに片を付けなければならない。

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