転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
俺は自室を出てロイドの部屋へと向かった。
何度か扉をノックすると、眠気まなこのロイドが扉の隙間から顔を覗かせる。
「ロイド、悪い。こんな時間に」
「……ん~? ……どうしたの~?」
「お前に頼みがあって。入っていいか?」
「ん……どーぞぉ」
この時間だ。ロイドは当然寝ていたのだろう。
大きなあくびをしながら、ロイドは俺を中に入れてくれた。
月明りだけが差し込む暗い部屋で、俺たちはベッドに並んで座る。
「……それで……頼みって……何? 僕…………眠い」
「ああ、そうだよな。悪い、手短に言う。――ロイド、俺に魔法を使ってくれないか? 魔力の滞りを治す魔法を、今すぐ俺に使ってくれないか?」
「…………え…………?」
するとロイドは眠気が覚めたのか、パッと両目を見開いた。
その顔が珍しく真顔になり……暗闇の中で俺を見上げる。
「本気?」
「ああ、本気だ」
「死ぬかもしれないよ?」
「わかってる。わかってて頼んでる」
「…………」
探るような目で俺を見つめるロイド。
その唇が、微かに嗤った。
「いいよ」
そう言ったロイドの瞳は、まるで坑道で初めて会ったときのように、妖しく微笑んでいる。
「君の頼みを聞いてあげる。でもこれだけは伝えておくね。――今から僕のすることは、この世界で誰もやったことのないことだ。君の中の閉じた魔力の通り道に、無理やり僕の魔力を注ぎ込んでこじ開ける。きっとものすごく痛いよ。痛くて痛くて、いっそ殺してほしいと思うかもしれない。どれくらいかかるかもわからないし、成功しても何日も痛むかもしれない。後遺症が残るかもしれないよ」
「…………」
「答えて、アレク。今の話を聞いても、君の決心は揺らがない? 君には本当にその覚悟がある?」
「…………」
正直言えばすごく怖い。怖くないはずがない。
それでも――俺の決心は揺らがないから。
俺が頷くと、ロイドは納得したのだろうか。
すくっとベッドから立ち上がり、どういうわけかクローゼットを物色し始めた。
いったい何をするのかと見ていると、戻ってきたロイドの手に握られていたのは、数本のロープとフェイスタオルで……。
――何だか、とても嫌な予感がする。