転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
俺は半ばパニックになりながら、ユリシーズに助けを求める。
するとユリシーズは、やや顔をしかめてリリアーナを見つめた。
「なるほど。聖下は随分身勝手な方みたいだね。――それで、リリアーナ。君はその使いに、ただイエスと答えたのかい? 本来は君の成人まで待ってもらう話になっていたはずだろう?」
ユリシーズのいつもより少し低い声。
その声音に、びくりと肩を震わせるリリアーナ。そんな妹の様子に、俺は益々どうしたらいいかわからなくなる。
けれど今にも思考が爆発しそうになったそのとき、リリアーナが口を開いた。
「確かに少し早いとは思いましたが――」と。
リリアーナは続ける。
「お兄さまもユリシーズ様も、毎日わたしのために頑張って特訓してくださっている。でも、わたしは何もできていませんわ。――だったら一日も早く神殿に入って、少しでもこの力の扱い方を覚えておいた方が、お兄さまたちのためになるかと思いましたの」
「……リリアーナ」
その言葉に、俺はただ驚いた。まさかリリアーナからそんな大人びた言葉が出てくるとは思っていなかったから。
(俺が思っていたより、リリアーナはずっと大人になっていたんだな……)
ならば、ここは兄として応援してやらねばなるまい。
リリアーナ自身がそう望むのなら、ここは潔く送り出してやるのが兄の務めというもの。
それに、別にこれが今生の別れというわけでもないのだから。
俺はユリシーズと顔を見合わせ、頷きあう。
「わかった。頑張るんだぞ、リリアーナ」
「そういうことなら応援するよ。僕らも、君を守れるくらいもっと強くなるからね」
俺たちがそう言うと、リリアーナはいつものような笑顔を見せてくれる。
「はい、お兄さま!」
――こうして翌日、俺たちは神殿に向かうリリアーナを、屋敷の門から笑顔で見送った。
とはならず……。
心配のあまりリリアーナを神殿の前まで送り届けたら、なぜか俺たちまで中に招かれて――という展開になるのだが、それはまた次の話。