転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜


 ◇



 けれど、俺の能天気な考えはあっという間に覆された。

 ユリシーズが部屋に入れてくれないのだ。 
 話があると言っても、「僕は話すことはない」と拒絶される。
 
 こんなことは初めてで、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。


「ユリシーズ! お願いだ、入れてくれ!」

 俺は扉の前で食い下がる。
 けれど中から返ってくるのは、「何も聞きたくない」という冷たい声だけ。
 でも、俺にはユリシーズがそんな態度を取る理由がどうしてもわからなかった。

「俺……お前に何かした?」

 正直、何も身に覚えがない。
 確かに深夜のやり取りはユリシーズの気持ちを()むものではなかったかもしれないが、だからと言ってこんな態度を取る理由にはならないだろう。

(一度出直すか? でも、この様子じゃ出直したところで同じだろうな)

 ――仕方ない。

 俺は諦めて、メモを残すことに決める。

 別に、俺としては要件だけ伝えられればいい。
 直接話した方が誠実だと思っただけで、向こうが拒否するなら仕方ないだろう。

 俺は通りがかった使用人を呼び止め、紙とペンを持って来させる。
 そこに『身体はロイドに治してもらった。もう心配はいらない』と書いて二つ折りにし、ドアの下から差し込んだ。

 去り際、「紙に書いたから読んでくれ」と中に向かって言い残し――俺はその場を後にした。
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