転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
 ◇


 その後、俺は庭園の芝生に寝転がって青空を見上げていた。

 まだ早朝――十月も末のこの時期は気温も低く、散歩する人間はいない。この時間に来るとしたらせいぜい庭師くらいだろう。
 つまり、俺が芝生に寝そべっていようと何の問題もない。

 
「あー。ほんと意味わかんねぇ。何なんだよ、あいつ……」

 先ほどのユリシーズのあの態度。
 最初は大きなショックを受けたが、今になってそれが怒りに変わってきていた。

 部屋から追い返すとか――いったい俺があいつに何をしたというのか。

「全っ然わからん……」


 ――そう言えば前世、二人目の彼女にも同じような態度を取られたことがある。

 突然冷たくされ、理由を聞いても答えてくれず、仕方がないので放置したらある日突然振られた。
 本当に意味がわからなかったし、今でもどうして振られたのかわからない。

 今の状況はあの時に似ているような気がする。

(でも、ユリシーズは俺の彼女じゃないし。だいたいあいつ、男だし)

 ――ま、考えてもしょうがない。


 俺はユリシーズのことを頭の隅に追いやり、魔法を使ってみることにした。
 魔力が正常に循環するようになった今の身体なら、より威力のある浮遊魔法が使えるはずだ。
 

「さて、ターゲットは何にするかな」

 俺は上半身を起こし辺りを見回した。
 すると十メートルほど離れた花壇の隅に、水の入ったバケツを発見する。

 八分目まで水の入った、それなりに重そうなバケツだ。
 あれを零さず持ち上げることができれば……。

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