転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
――俺はバケツに意識を集中させ、心の中で、"浮け"――と強く念じた。
するとバケツが左右にカタカタと震えた後、ゆっくりと浮遊し始める。
と同時に、俺の中から何かが減り始めるのを感じた。
全身から力が抜けるような、急激に腹が減るような……何とも不思議な感覚。
きっとこれが、魔力を消費するということなのだろう。
(……なるほど。これは確かに減りすぎると危ないかもな。でもすげー楽しい)
魔力の循環が改善されたおかげで放出量に制限がなくなった。
その分消費量は激しいが、昨日までと比べると断然魔法の使いやすさが違う。
俺はバケツを上へ下へ、右へ左へと動かして、文字通り魔法で遊んだ。
そうしているうちに、俺はあることに気付く。
(よく考えたら浮遊魔法って、当然のことだけど無重力状態ってことなんだよな? だったら、あのバケツの中の水も当然浮くよな?)
宇宙では確か、水は綺麗な球体になるんだったはず。表面張力が何とやらってやつだ。
俺はさっそく試してみる。
今までバケツに注いでいた魔力を、中の水へと移動させていく。
すると一定以上の魔力が水に移動したところで、バケツは重力に負けて地面に落下した。
けれど水は浮いている。完全な球体で――。つまり、成功だ。
水球の下から太陽を見上げると、海の中から空を見上げているように表面が煌いて見えた。
この水球を作っているのが自分だと思うと、なんだかとても不思議だ。
(これ、我ながら凄くないか?)
身体にロイドの魔力を注がれたときは死ぬほど痛かったが、これだけの収穫があるならば……。
(ロイドには、本当に感謝しなくちゃな)
そんなこんなで、俺はしばらく水球を眺めていた。
――が、どれくらい時間が経った頃だろうか。
「アレクッ!」と、背後から名前を叫ばれ、俺は咄嗟に振り返る。
するとそこにいたのは、息を切らせて俺を鋭く睨む、ユリシーズの姿だった。