転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

28.雨降って地固まる

「ユリシーズ……?」

 俺を睨むユリシーズの鋭い瞳。
 肩は上下し、ゼェゼェと苦しそうに呼吸する(さま)からは、かなり長い時間走っていたのだと想像できる。

 つまり……。

(もしかしてこいつ……手紙を読んだ後、ずっと俺を探してくれてたのか……?)

 そう思うと、嬉しいような申し訳ないような……何とも言えない気持ちが沸いてくる。
 ――が、そんな俺の複雑な心境など知りもしないだろうユリシーズは、怒りの形相で声を荒げた。


「この……っ、馬鹿ッ!!」――と。


 その言葉は、普段のユリシーズからは絶対に出てこないような言葉。
 ユリシーズは、驚きよりも物珍しさの感情が勝っている俺の肩に、これでもかと掴みかかる。
 
「最近の君はとことんアホだと思ってたけど、まさかここまで考えなしだとは思わなかった!」
「……お……おう」
「おう、じゃないだろ! 僕は今すごく怒ってるんだ! 君が病み上がりじゃなければ一発殴ってるところだよ!」
「…………わ……悪い」

 怒られるとは思っていた。――思っていたが、正直このパターンは想像していなかった。

 ユリシーズのことだから、いつもの様な毒舌モードが発動するものかと思っていたのに。


「どうして君は自分の命をそんなに軽く扱うんだ!? 上手くいったからいいものの、一歩間違えれば取り返しのつかないことになっていたんだぞ! そんな重大なことをどうして君は一人で決めて突っ走る!? 僕はいつだって君のことを考えているのに、どうして君はそれがわからないんだ!? いい加減にしろよッ!」
「…………」
「僕は君に危ない目にあってほしくない、もっと自分を大切にしてほしいんだ! 昨夜だってそう伝えたよ……! なのに、どうして君はこんなことを……。僕の言葉は君に少しも届いていないのか!? 僕は……君にとってその程度の存在なのか?」
「……ユリシーズ」
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