転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
ああ――違う。
これはただの怒りではない。悲しみだ。
ユリシーズは、自分がないがしろにされたと思って怒っているのだ。
そのことに、深く傷付いているのだ。
さっきまで俺を睨みつけていたユリシーズの瞳が、泣き出しそうに揺れている。
それを堪えるように奥歯を噛みしめ、俺の肩を掴む両手はカタカタと震えていて。
そんなユリシーズの姿に、俺は強い罪悪感に襲われた。
「……ごめん、悪かった。俺、お前を傷付けるつもりじゃなかったんだ」
そうだ。本当にそんなつもりではなかった。
俺はただ、自分がラスボスになりたくなかっただけ。リリアーナに殺される運命から逃れたかった――それに、俺はきっとロイドの手によって殺されることはない。そう信じていたから……。
でも、そんなことは口が裂けても言えない。――だから。
「俺はただ、リリアーナを守れるだけの力が欲しかったんだ。それにもう二度と、お前の足手まといにはなりたくなかったんだよ」
「――っ」
“足手まとい”――その言葉に、ユリシーズの瞳が見開く。
「いつ……僕がそんなことを言った?」――と。
「言ってない。ただ俺が勝手にそう思ってただけだ。でも実際そうだろう? 聖剣がなければまともに戦えない。自分の力だけじゃ魔物一匹倒せない。挙句の果てにお前に怪我までさせて……こんなの、足手まとい以外の何物でもないだろ」
「…………」
「お前が俺を大事に思ってくれるように、俺もお前を大事に思ってるんだ。だから俺は力が欲しかった。大切なものを守れるだけの力が……。これ以上惨めな思いはしたくなかった。瘴気をちょっと吸っただけでぶっ倒れるような身体なんてくそくらえだ。――俺にだってプライドがあるんだよ」