転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

29.答え合わせとリリアーナの帰還

 それから三日が経ったその日の午後、俺はバルコニーで双眼鏡を覗きこみ、ロイドと共に街の様子を監視していた。
 なぜって、今日はリリアーナが帰ってくる日だからである。


「ああ……早くリリアーナに会いたい……」

 俺はリリアーナレスに陥っていた。
 この一週間は色々と忙しくしていたとはいえ、こんなに長くリリアーナと離れるのは学生時代以来初めてのことだからだ。

 ときどき父親の領地経営の手伝いで数日屋敷を離れることはあっても、一週間もリリアーナと顔を合わせないなんてことはなかったし、おはようのキスも、おやすみのキスも欠かしたことはない。
 
 そんなわけで、俺は早くリリアーナを抱きしめたくてソワソワしていた。

「ああ……早くリリアーナに会いたい」

 俺は同じフレーズを繰り返す。
 すると、いつの間にか背後に立っていたユリシーズが大きく溜息をついた。

「アレク。気持ちはわかるけど、君、もう一時間もこうしてるよ。せっかく風邪が治ったのに、ぶり返したらどうするの?」
「ユリシーズ……いつの間に」
「昨日だって止めたのに、急に伯父上と川釣りに出掛けたりして……僕は君が全然わからないよ」
「いや、だってそれは、お前の伯父さん釣りが趣味って言うから……。俺も釣りは結構好きだし、親睦を深めるのもアリかなぁと」
「…………」

 俺の言葉に呆れたのか、ユリシーズは再び深く溜め息をつく。
 そして今度はロイドに話しかけた。

 バルコニーの手すりに腰かけ足をぶらぶらさせながら、キッチンからくすねたであろう菓子を次々に口に放り込んでいくロイド。
 その横顔は、まるで幼い子供にしか見えない。

「ロイド、君も君だ。ここは二階だよ。そういう危ない座り方はやめてくれないかな? 下を通りがかった使用人が皆びっくりしているよ」
「え~? でも僕、落ちないし。落ちても平気だし。それより君もこれ食べる? クルミ入りのクッキー、おいしいよ」
「……いいよ、お腹空いてないから」

 ロイドの返答に、ユリシーズは今度こそ毒気を抜かれたようだ。
 ユリシーズは「はぁ」と脱力すると、バルコニーの手すりに背を預ける。

 そのまま晴れ渡った大空を仰ぎ、「平和だな」と呟いた。
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