転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
――ああ、こいつは何てかっこいいんだろう。
俺だったら絶対に恥ずかしくて言えないような言葉を、こんなに真っすぐに伝えられるなんて。
俺はこいつのこういうところを、心底尊敬する。
俺は結局何も答えられず、けれどユリシーズは満足そうに微笑んだ。
すると丁度タイミングを見計らったかのように、ロイドが声を上げる。
「聖女さま、帰ってきたよ」――と。
その声に俺は眼下を見下ろした。
するとそこには確かに、ノーザンバリー辺境伯の紋の入った馬車があった。
――ああ、間違いない、リリアーナだ!
「俺、行ってくる!」
俺はユリシーズを顧みる。
すると、「うん、行ってらっしゃい」と言って、俺を送り出してくれるユリシーズ。
俺は部屋を飛び出して階段を駆け下りた。
玄関ホールの扉を開け、広いロータリーを駆け抜ける。
そして、停車した馬車から降りるリリアーナを思いきり抱き締めた。
「リリアーナ……! 怪我はないか!? よく頑張ったな! 偉いぞ!」
すると突然のことに驚いたのか、リリアーナは目をぱちくりとさせる。
――驚いた顔も最高だ。
リリアーナは少しの間俺の腕の中で茫然としていたが、しばらくしてハッと顔を上げた。
「お兄さま……お身体は……お身体の具合は……?」
「手紙送ったろ? もう大丈夫だ、心配ない」
「……あぁ……でも、だってお兄さまのことだから……」
「お前を心配させないように、嘘をついてるかもって?」
「……っ」
「そんな嘘すぐばれるだろ。俺だってそこまで愚かじゃない。――それよりごめんな。出発までずっとお前が看病してくれてたって、ユリシーズから聞いた。見送りできなくて悪かった」
「……そんな……そんなこと……! お兄さまがご無事なだけで……、わたしは……」
――ああ、リリアーナ……。
セシルやグレン、マリアや他の使用人たちの前にもかかわらず、俺はリリアーナを強く抱きしめる。
二度とリリアーナを悲しませないと。二度とリリアーナを傷付けないと。
そう深く心に刻み込み、俺は痺れを切らしたセシルによってリリアーナと引き離されるまで、久しぶりのリリアーナの感触を堪能したのだった。