転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 そもそも、国境の瘴気はあまりにも広範囲に及んでしまっており、光魔法師では対応ができない状況だった。当然、リリアーナの力でも浄化しきるのは難しい。

 だからサミュエルは、自分の魔力を注いだ魔力石で聖水を作り、それを降らせようと考えた。
 とは言え、必要な水はあまりにも膨大だ。国境付近には川も湖もない。
 計画を実行するためには、まず大量の水を用意するところから始めなければならなかった。

 サミュエルが考えた計画はこうだ。

 まず第一に、土魔法で地面に巨大な穴を掘る。
 第二に、穴底に光の魔力石を打ち込む。
 第三に、水魔法で穴に水を溜める。(水はサミュエルの魔力石によって聖水と化す)
 第四に、溜めた水を広範囲に雨として降らせる。

 かなり無茶苦茶な計画だが、理論上、これで一気に瘴気を浄化することが可能だった。

 だが上記の計画を実行するためには、そもそも安全に穴を掘る環境を作る必要があったし、第四の手順には魔力コントロールが抜群に優れている者が必要だ。

 そのための、リリアーナとセシルだったのだ。


「いや……ほんと、俺たち行かなくて良かったよな」

 今さらながら思うが、俺やユリシーズが同行しても全く役立たずだっただろう。
 それ以前に、瘴気を吸ってぶっ倒れてしまうような少し前の俺では、戦力外どころか足手まといにしかならなかった。

 ――それに、だ。

「付いていかなかったおかげで、俺は身体に魔力を循環させられるようになったわけだし」

 全ては結果オーライだ。
 
 俺はぐいっとグラスを煽る。――すると、そのときだった。
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