転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

「だ――大丈夫だ、リリアーナ。俺とユリシーズがついてるから」
「でもお兄さま。わたし、神殿がこんなに立派なところだなんて知りませんでしたわ。お兄さまもいなくて、ひとりでやっていけるかしら。もし聖下が怖い方だったら……粗相をしたらどうしましょう」
「リリアーナ……大丈夫だ、そんな顔するな。ほんとに、きっと大丈夫だから。聖下って呼ばれるからには優しい方に違いない。多少の粗相は許してくれるはずだ。だからそんなに心配しなくていい」

 俺は内心テンパりながらも、必死にリリアーナを励まそうとする。――が、言ってしまって気が付いた。
 これでは、リリアーナが失敗すると言っているようなものだ、と。

 実際、リリアーナは俺の言葉にショックを受けたようで、カァっと顔を赤くすると、俺から顔を背けてしまう。

(ああ……しまった。今のは俺が悪い)

 だが言ってしまったものはしょうがない。とにかく挽回しなければ。
 そうは思ったが、俺には何が正解かわからなかった。

 するとそんな俺を見かねたのか、ユリシーズが助け舟を出してくれる。

「落ち着いて、リリアーナ。君は神殿から招かれて来たんだ。言わばお客様だよ。堂々としてればいいんだ。――大丈夫。僕は君がとっても頑張りやさんだってことを知ってるよ」
「でも、お兄さまは……」
「君が粗相をするかもって? いいじゃないか、失敗したって。君はまだ十五だ。聖下だって承知のはずさ。言い方は悪いけど、君に完璧を求めてはいないよ。気楽にやったらいいんだ」
「……そう、かしら」
「そうだよ。僕らは一緒に行ってあげられないけど、心はいつも君と共にある。だから、ね? いつもの笑顔を、アレクに見せてあげよう?」

 ユリシーズの言葉は、ともすれば逆効果になり得る内容に聞こえた。
 けれど何の誤魔化しもない心が通じたのか、リリアーナはすんなりと納得を見せる。
 
 先ほどまでの不安な顔が嘘のように、リリアーナはいつもの笑顔を取り戻したのだ。
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