転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
彼はどうやら俺たちの到着を既に知っていたようで、焦る素振りもなく橋を渡り切り、俺たちの前に立つ。
そしてルーファスと名乗ると、俺たちが挨拶を返すより早く、リリアーナの荷物ケースを持ち上げた。
「どうぞ、中へ」
無表情にそう言って、彼はくるりと踵を返す。
俺はそのあまりにも無愛想な態度に驚き、咄嗟に彼を呼び止めた。
「――えっ、ちょ、待てよ! ルーファス……さん」
「……何か?」
「いや、あの……俺、アレクって言うんですが……妹がこれからお世話になるので、せめて挨拶をと」
「…………」
すると彼は煩わしそうに眉をひそめ、はぁ、と小さく息を吐く。
(え? ――何だこいつ。態度悪すぎやしないか?)
瞬間、俺は思わず声を上げそうになった。
けれど、その気持ちをぐっと堪える。神官に悪い印象を持たれては、リリアーナの待遇に関わるからだ。
――けれどそう思ったのも束の間、ルーファスさんから返ってきたのは予想外の言葉で……。
「存じてます。ローズベリー家のご嫡男でしょう? そして隣は、ハミルトン家のユリシーズ様」
「――え。俺たちのこと知ってるんですか?」
「当然でしょう。リリアーナ様のご家族と大切なご友人ですから。それにお二方とも、リリアーナ様と共に国境に赴いてくださるとか。貴族でそのような方は大変珍しいですよ。聖下含め私たち神官一同、感謝申し上げねばならない立場です」
「あ……、そう……なんですね」
その割には、俺たちのことが気に入らない態度だが。
――という俺の感情が伝わってしまったのか、ルーファスさんは再び溜め息をつく。
「最初にお詫びしておきますが、私は誰にでもこうなのです。別にあなた方が気に入らないというわけではない。それと、私のことはルーファスとお呼びください。この神殿であなた方が敬わねばならない方は聖下ただお一人。他の者のことは何と呼んでいただいても構いません」
「……え。――それって、どういう意味……」