転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 何だか話が嚙み合っていない気がした俺は、思わず聞き返す。
 するとルーファスさん――もといルーファスは、三度目の溜め息をついた。

「皆まで言わねばわかりませんか? 挨拶は中で、と言っているんです」
「つまり……俺とユリシーズも中に入れてもらえると?」
「さっきからそう言っているでしょう」
「…………」

(いや、多分、言われてない)

 この男、態度が悪いだけではなくどうやら言葉も足りないらしい。

 そんなことを思いつつユリシーズを見やると、彼は困惑を通り越し不安げな顔をしていた。
 どうして自分たちが入殿を許されるのか、不思議でたまらないという様子だった。

 ――が、せっかく入れてくれると言っているのだ。乗らない選択肢はない。
 俺はリリアーナの右手を取り、しっかりと握りしめる。

「リリアーナ、聞いたか? 俺たちも中に入れてもらえるって。これでまだしばらく一緒にいられるな」

 そう言うと、パアッと向日葵(ひまわり)のような笑顔を咲かせるリリアーナ。

「わたし、とても嬉しいですわ、お兄さま!」

 

 ――とまぁこんな経緯で、俺たちは仲良く三人で中に入ることを許されたわけだが……。


 なんという失態か。
 ものの数分、俺が神殿内の景色や建造物の美しさに気を取られている間に、リリアーナが姿を消してしまったのだ。
 ――そう、つまり迷子である。
 
 しかも気付いたのは謁見室(えっけんしつ)の目前。
 先頭を歩くルーファスと宗教談義をしていたユリシーズが不意にこちらを振り向いて、リリアーナの不在に気が付いた。
 つまり、これは全て俺一人の責任だ。前を歩いていた二人は何も悪くない。

 リリアーナがいないことに気付かなかった俺を、責めるような二人の顔。
 ルーファスの冷ややかな視線と、呆れかえったユリシーズの眼差しに耐えられなくなった俺は、本能的に後ずさる。

「いや、あの……申し訳ない! 俺、リリアーナを探してくる! すぐに戻ってくるから待っててくれ!」

 俺はそれだけを言い残し、何かを言いかける二人を置いて、元来た方へと駆け出した。
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