転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

(ああー。だとしたらグッジョブ妹! 『アレク(今の俺)がラスボスだったなんてショック! 絶対に隠し攻略キャラだと思ってたのにー!』って大声で叫んでくれてて助かった! いやー、これで兄ちゃんこの世界では長生きできそうだわ!)

 そんなことを考えているうちに、リリアーナの聖女の力が本格的に目覚めたらしい。
 彼女の周囲を光の輪のようなものが取り囲み、その輝きが俺の傷を癒やしていく。千年に一人いるかどうかの強い聖魔法の使い手、聖女リリアーナの誕生の瞬間だ。

(ああ……これは凄いな。死ぬかと思った痛みが嘘のように消えていく。現代医療も魔法には勝てないな。控えめに言って、魔法……神だわ……)

 だが、この力のせいでリリアーナの人生は大きく変わってしまう。
 これまではちょっと魔力が強いだけの伯爵家の一令嬢だったのに、兄アレクの傷をこんな往来のど真ん中で治してしまったものだから、あっという間に王都中に知れ渡ってしまうのだ。
 そして成人である十六歳の誕生日を境に、各地で頻発する魔物の討伐と瘴気の浄化に奔走させられることとなる。

 前世の妹の情報によると、その瘴気を作り出したのがアレク(つまり今の俺)であるということだったが……って、あれ? じゃあ俺がその瘴気とやらを作らなきゃリリアーナはこの先もそんな無茶ぶり人生を歩まなくても済むのでは?
 というか、そもそもアレクはどうやって瘴気なるものを作り出したんだ? その理由は?

(……駄目だ。何も思い出せない)

 今世の二十年間の記憶を漁ってみても、アレクが瘴気を生み出したことはなく、その方法も理由もわからなかった。
 ――が、きっと大丈夫だ。俺は自分が殺されるとわかっていてそんなことをしでかすほどアホではない。

 俺は自身に言い聞かせ、ゆっくりと身体を起こした。
 瞳に涙を溜めたリリアーナの頬に手を添え、にこりと微笑む。

「ありがとう、リリアーナ。お前のおかげで治ったみたいだ」

 すると、わあっと泣き出して、俺の首にすがりついてくるリリアーナ。

「お兄さま……っ、良かった……本当に……!」
「俺の方こそ、リリアーナに怪我がなくて良かったよ」

 ――前世では妹を庇って死んでしまった俺だけど、せっかくリリアーナに助けてもらったんだ。この人生は長生きしたい。
 それに、リリアーナには平凡で穏やかな人生を歩んでもらいたい。たとえ彼女が乙女ゲームのキャラクターに過ぎないとしても、俺がアレクとして十五年間彼女を妹として大切にしてきたことに変わりはないのだから。

 俺はわんわんと声を上げて泣くリリアーナを抱きしめ心に誓う。
 ラスボスポジションの返上と、リリアーナの幸せ、そしてこの世界の安寧を。

 ――そのはずだったのに。


 一週間後、父の書斎に呼ばれた俺は驚愕することになる。
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