転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜


「リリ――、……!?」

 階段を下りた先にいたのは、リリアーナ一人ではなかった。隣に一人、見知らぬ男が立っている。
 しかも信じられないことに、リリアーナはその男と楽しそうに談笑しているではないか。

(誰だ、あの男……? 神官か? ――いや、違う。あの外見、どこかで見たことが……)

 次の瞬間、男の正体に気付いてしまった俺は咄嗟に茂みに身を隠した。
 なぜならその男は、この国の王太子、セシル・オブ・リルヘイムだったのだから。

(いや、待て待て……何でリリアーナとセシルが楽しそうにしゃべってるんだ? ってか、どうしてここにセシルがいるんだよ、神殿だぞ? ――いや……違う。こんなところだから、なのか……?)

 そうだ。セシルはこのゲームの攻略対象者。そしてこの神殿は、シナリオを進める上で重要な拠点となっていたはず。
 つまり、ここにセシルがいるのは必然なのだ。

(セシル・オブ・リルヘイム……このゲームの圧倒的メインヒーロー)


 肩口にギリギリ触れる青みがかった銀髪に、ターコイズブルーの瞳。背は高身長というほどではないが、すらっとした細身の好青年。
 遠目すぎて表情までは読めないが、"青薔薇の王子(プリンス)"の名にふさわしい、まさにファンタジー世界の王子そのものという容姿をしている。

 そして、そんなセシルがリリアーナと話している。――ということは、だ。

(これはあれか? ヒロインと攻略対象者の出会いの場面……ってことか?)

 迷子になったヒロインを助けるヒーロー的な……ベタベタな展開すぎる気もするが、だからこそ確信できる。
 これは邪魔をしたらいけないやつだ、と。

 ――だがしかし。

(正直、気に入らない)

 だってそうだろう。
 いくらセシルがメインヒーローとは言え、可愛い妹が男と二人きりになるなど、兄として見過ごせるわけがない。
 それに二人がいったい何を話しているのか……単純に気になる。


(大丈夫。――見つからなきゃいいんだ)

 俺は二人に近づくべく、茂みの中を四つん這いになって進んでいった。
 けれどようやく二人の会話が聞こえそうな距離まで近づいた、そのとき――。


「――動くな」
「……っ!?」

 突然背後からドスの()いた声が聞こえたかと思うと、俺の首筋にひんやりとした何かが触れる。
 それはあまりにも長い刃物――つまり、長剣だった。
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