転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「――へァッ?!」
突如突き付けられた剣先に、俺は自分でもびっくりするほど情けない悲鳴を上げてしまう。
更に情けないことに、俺はその場で腰を抜かした。
それでもどうにかこうにか振り向くと、そこには俺を虫けらのように見下ろす、赤い目をした男が立っていた。
「――っ」
瞬間、俺は確信する。
ああ、そうだ。俺はこの男のことも知っている。
燃えるような赤い髪に、それと同じ色の瞳。まるで俺と同じ年齢とは思えないほど鍛え上げられた身体。
そう、この男は“紅蓮の聖騎士”の異名を持つ、グレン・ランカスターその人だ。
(この凄まじい殺気……本物だ)
俺をゴミでも見るかのように見下すグレンは、今にも俺を斬り殺さんばかりの目をしていた。――その冷たい眼差しに、俺の背筋が凍り付く。
ああ、どうして俺は気付かなかったのか。
王子であるセシルがいるということは、その近衛騎士であるグレンもいるはずだという当然のことに。
「答えろ。こんな場所に隠れて何をしていた?」
「――っ、……あ……いや、それは……」
突然の問いに、俺は頭も口も回らない。
「答えなければ、敵意があると見なす」
「――ッ!?」
俺はただリリアーナを見守っていただけだ。
確かにその方法は褒められたものではないかもしれないが、セシルになんてこれっぽっちも興味はない。
「ま……待て! 話を聞いてくれ! 俺はただ妹のリリアーナを見ていただけだ! 殿下のことなんて少しも――!」
すると、グレンの眉がピクリと震えた。
「ほう? つまりお前は、あの方を殿下と知った上で盗み見ていたと、そういうことか?」
「そうじゃない、誤解だ……!」
「ならばいったい何だと言うんだ? 内容次第では、その首無いものと思え」
「――ッ」
――この男、恐すぎる。
さっきの神官ルーファスも大概だと思ったが、まさか攻略対象であるグレンまでブッ飛んだ性格をしているとは……。
これでは聖騎士ではなく、まるで魔王だ。
魔物の大群を引き連れるグレンの姿を、俺はヤケクソぎみに妄想する。
すると、そんなときだった。
「お兄さま!」――と、ピンチの俺を救わんとするリリアーナの声が響き渡り、同時に駆けつけたセシルが、グレンの肩を掴んで止める。「その剣をすぐに下ろせ」と。
そのセシルの姿は、まさにヒーローそのもの。