転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
セシルはひとしきり笑ってから、俺の前に右手を差し出す。
これは握手を求められているのだろうか……?
躊躇いつつその手を握り返すと、セシルは爽やかに笑む。
「僕のことはセシルと呼んでほしい。君のこともアレクと呼ばせてもらうから」
「は……。いえ……流石に殿下を名前で呼ぶわけには」
「そうかい? では、周りに人がいないときだけでも」
「……はい、それならば」
「ありがとう、アレク。これからどうかよろしく頼むよ。実は僕も魔物の討伐に参加することになったんだ。短くない時間を共にすることになるだろうから、いい友人になれたらと思う」
そう言って笑みを深くするセシルに、後光が差したように視えたのは気のせいではないだろう。
これが天性の陽キャというやつか。俺より二つも年下なのに人間というものができ上がっている。
加えて魔法の扱いも長けているというのだから、隙がなさすぎて怖いくらいだ。
そんなことを考えていると、不意にセシルの顔が眼前に迫った。
そして、囁くようにこう言った。
「――ところでアレク。謁見室までのリリアーナのエスコート、僕に任せてくれないかな?」と。
セシルは更に続ける。
「僕、彼女に一目惚れしたみたいなんだ。口説く許可をもらいたい」
「――っ」
(こいつ……!)
――前言撤回。
この男、只の陽キャと思いきや、実はかなりの曲者かもしれない。
リリアーナを口説く許可を兄である俺に求めてくるなど……しかもこんな直球に言われたら、イエスと答えるしかないじゃないか。
「……で……殿下の御心のままに……」
苦し紛れに答えると、セシルは満足気な顔をする。
「ありがとう、アレク」そう言い残し、リリアーナにアプローチをかけに行った。
セシルの誘いに笑顔で応じるリリアーナの姿を見て、酷くざわつく俺の心。
(――俺、こんな調子でこの先やっていけるのか?)
俺は心の動揺を必死に誤魔化しながら、どこまでも晴れ渡る青空を力無く見上げるのだった。