転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

5.大神官サミュエル


 俺たちが謁見室に入ると、そこには大神官サミュエルが待ち受けていた。
 だだっ広い部屋の中央にあるテーブル席の一番上座――お誕生日席に座し、肘置きに頬杖をついて俺たちを目で追うその表情は、誰が見ても不機嫌そのものだった。

 無表情の中に潜んだ苛立ちが、全身からほとばしっていた。

(……しまった。まさか聖下が俺たちより早く来てるとは)

 サミュエルの睨むような視線に、全身から血の気が引く。
 きっとかなり待たせてしまったのだろう。

 サミュエルの後ろに待機するルーファスの顔は怒りのあまり引きつっているし、ユリシーズはそんなピリついた空気が居たたまれない様子で、下座の席で感情を殺した目をしていた。


(これはマズい。大神官様を怒らせるとか、俺の人生終わったのでは……?)

 グレンには目をつけられるし、サミュエルからも悪い印象を持たれては立つ瀬がない。 
 俺は今すぐこの場を引き返してしまいたくなる。が、実際はそんな真似ができるはずもなく――。


 ――太陽の光を閉じ込めたような色の長い髪と、黄金色に輝く瞳を持った大神官サミュエル。男とも女とも思える彫刻のような整った顔立ち。
 けれど体つきはかなりしっかりしていて、まるで美を(つかさど)る男神のよう。

 そんな美しい男の怒りの笑みといったら、恐ろしいことこの上ない。
 クール系美人は人に冷たい印象を与えるというのを、もろに体現していると思う。

 俺は絶望しながらも、そんなことを考える。

 ――だがセシルはそんなピリついた空気をもろともせず、困ったように微笑んだ。

「あまり怒らないでよ、サミュエル。皆びっくりしてるじゃないか。遅れたのは悪かったけど、君は仮にも神官だ。もっと心を広く持ったらどうだい?」
「――ハッ。仮にも、だと? 俺が誰だか忘れたか? しばらく会わないうちに礼儀を忘れたようだな。ふてぶてしいところがあの男にそっくりだ」
「僕が父上に? 面白いことを言うね。君の方こそ耄碌(もうろく)したんじゃないか? そろそろその席を次代に明け渡したらどうだい?」
「……本当に口の減らないガキだ」

 ――そしてどういうわけか、バチバチと火花を散らせる二人。
 サミュエルは明らかに喧嘩腰だし、セシルは穏やかな言葉の裏に不満を募らせているように見える。

(サミュエルの怒りの原因が俺じゃないことはわかったが……この二人……どういう関係だ?)

 もしかしなくても二人は仲が悪いのだろうか。
 後でユリシーズに聞いてみよう。
 
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