転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
そんなこんなで、ようやく俺たちは席につくことを許された。
サミュエルの次の上座にセシルが座り、その反対側にリリアーナ、俺、ユリシーズの順だ。
なおグレンはセシルの後方で立って控えている。
話を切り出したのは、当然サミュエルだった。
「今日この場に集まってもらったのは外でもない、お前たちに北の辺境で発生した瘴気の浄化と魔物の討伐をしてもらうためだ」
サミュエルは椅子に背を深くもたれながら、憮然とした様子で以下のことを説明した。
まず、今回発生した瘴気が想定より濃く広範囲だったため、魔物を倒す魔法師や魔剣士に負傷者が多数出ていること。当然浄化も間に合わず、このままでは収束は望めないこと。そのため一刻も早く現地に向かってもらいたいこと。
また、この一年の間の瘴気の発生件数は例年の十倍にも及んでおり、地方の神官だけでは浄化が間に合わず、王都の神官が出払ってしまっていること。
そして神官の不足のために、リル湖に加護を付与するサミュエルの負担が増えているということだった。
「――お前たち、この部屋に来るまでに何人とすれ違った?」
一通り説明を終えたサミュエルの問いに、俺たちは押し黙る。
――答えはゼロ。こんなに広い神殿なのに、人の気配は全くと言っていいほどなかった。
「こんな状況でなければ騒がしいほどの場所なんだがな。今は俺とルーファスを除けば、下級神官数名と見習いの者が三十人程度いるだけだ。おかげで俺は人目も気にせず最奥から出られるわけだが……流石に人手不足でかなわん。上級神官のルーファスに、お前たちの案内をさせるくらいだからな」
そう言って皮肉気に口角を上げるサミュエルは、確かに疲れているように見える。
そんなサミュエルの姿に、苦悶の色を浮かべるルーファス。――口では何も言わないが、きっとサミュエルを心配しているのだろう。
それくらいは、この俺にだってわかった。
――が、それにしても、だ。
この国がそんなに危ないことになっているなんて、俺は少しも知らなかった。
国民は今日も明日もこの先もずっと平和であると信じているし、俺だってそうだった。
瘴気は神官が浄化してくれる。何の問題もない。そう思ってのほほんと生きているだけだった。
それなのに、実際はこの有様だ。