転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
暗い空気の中、今度はセシルが口を開く。
それは先ほどのセシルとは違う、王太子然とした態度で――。
「サミュエル……君に負担を強いてしまって申し訳ない。こうなったのは全て王家の責任だ。父上は国力と領土拡大のために何度も戦争を起こしてきた。結果それは叶ったが、どうしても管理が行き届かなくなってしまった。リル湖の水だって、国全体にいきわたらせるには明らかに不十分だ。加護を付与するお前の負担も大きい。いくら神官を増やしても、これでは焼け石に水だろう。僕だってわかってる。だが、父上にいくら進言しようと聞き入れてもらえなかった。王太子として力不足で――本当にすまない」
そう言って椅子から立ち上がり、サミュエルに頭を下げたのだ。
「サミュエル、さっきはあんなことを言ってしまったが、僕は君にも、神官たちにも感謝している。この国が存続しているのはひとえに君たちのおかげなんだ。だから僕はここに来た。こんな非力な僕でも力になることができるのならと――。だから、アレク、そしてユリシーズ……それに、リリアーナ。どうか君たちの力を貸してくれないか。この国の未来のために」
そして、俺たちにも頭を下げる。
王太子であるセシルが……こんな、戦力になるかだって怪しい俺たちに。
普通そんなのあり得るか?
さっきまであんな……リリアーナを口説いていいかなんて言ってた奴が、俺に頭を下げているなんて。
たった十八歳の、前世であればただの男子高校生の年齢で――セシルは、こんな風に国の未来を背負っている。
それはどれだけ大変なことか。
少なくとも俺には無理だ。
俺はこいつのようにはなれないし、なりたいとも思わない。そんな大きな責任、絶対に背負えない。――だけど。
「顔を上げてくれよ、セシル」
――うっかり殿下呼びするのを忘れ、忘れたことにも気が付かず、俺はセシルの名前を呼ぶ。「協力は惜しまない」と。「全力を尽くす」と。
するとそれに呼応するように、ユリシーズも力強く微笑んだ。
リリアーナも、今にも泣きそうな顔で――いや、もう泣いてるか。とにかく大きく頷いた。