転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

「アレク。――リリアーナが神殿に召されることが決まった。北の国境付近で強い瘴気が発生し、動物たちが魔物と化していると。その討伐隊の聖魔法師に、リリアーナを所望(しょもう)された」

 唸るような父の言葉に、俺の頭は一瞬にして真っ白になる。

「そんな……どうして……」

(いったいどういうことだ? 俺は瘴気なるものを発生させた覚えはない。なら、いったい誰が? ラスボスは俺じゃなかったのか? それともこれが俗にいう、ゲームの強制力ってやつなのか?)

 俺は混乱しながらも、父の言葉に反論する。

「……ですが、父上。リリアーナはまだ十五です。そんな危険な場所に行かせられるわけがない」
「ああ、当然だ。だからせめて成人まではご容赦いただくよう申し上げた。一応は聞き入れてくださったが――第一陣の部隊で瘴気を払えなかった場合は、成人前でも力を貸してもらえないかと陛下直々に頭を下げられてしまったよ」
「……陛下、直々に……」
「そうだ。つまりこれは国王命令。陛下の臣下たる我々貴族に断る(すべ)はない。――そのことを、お前にはよく理解しておいてもらいたい」
「…………」

 父の諦めたような声に、俺は悟らざるを得なかった。
 断ることは不可能なのだ、と――。ならば、俺にできることは一つしかないではないか。

「わかりました。では、俺も行きます」
「――何?」
「俺も、リリアーナと共に国境へ向かいます」
「何を馬鹿なことを……! お前はこの家の後継者。結婚も控えているのだぞ! 行かせられん!」
「いいえ、行きます。お許しいただけないのなら、俺はリリアーナを連れて行方をくらまします。俺にはその覚悟がある」
「……ッ」

(たとえゲームのシナリオだろうと、俺はリリアーナに命を救われた。それに彼女は俺の可愛い妹だ。妹だけを危険な場所に行かせておいて、後継者だからという理由でのうのうと屋敷に閉じこもっているわけにはいかない。――それに、瘴気の発生源も見ておかなければ)

 俺は父としばらく睨みあった。
 が、最後は父が根負けする形で溜め息をつく。

「――わかった。お前の覚悟、陛下にしかとお伝えする」


 こうして、俺はリリアーナに帯同する許可を得た。

 リリアーナの十六歳の誕生日まで残り四ヵ月。遅くともそれまでには、今後のシナリオに関する情報を集めておかなければ――俺はそう、心に固く決意するのだった。
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