転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「――はっ?」
そのまま空中で半回転し、地面に背中を打ち付ける。
次の瞬間、痛みに呻く俺のもとに後方の馬車が突っ込んできて――。
「――アレクッ!!」
刹那――ユリシーズの叫び声と共に、俺の前に分厚い氷の壁ができあがった。バキバキと音を立て、ものの一秒も経たないうちに。
それはあまりにも美しい、ユリシーズの固有魔法――。
「――レク……アレクッ!!」
「……っは」
――名前を呼ばれ、俺はハッと目を開けた。
そこには顔面蒼白で俺を見下ろす、ユリシーズの姿があった。
「アレク、怪我は……怪我――どこか、痛いところは……?」
そう言いながら、地面に横たわる俺の身体をくまなく触るユリシーズ。
そして俺が五体満足であることを確認すると、ほっと安堵の息をつく。
「良かった。さっきリリアーナが聖魔法をかけてくれたんだけど……なかなか目覚めないから、凄く心配したよ」
「ああ、悪い。心配かけた。落ちたときは痛かったけど、今はもうなんともない。――にしても、ほんと凄いな。これ、お前の魔法だろ?」
ユリシーズの手を借りて身体を起こした俺は、氷の壁を指差した。
すると、ユリシーズは照れくさそうな顔をする。
「ああ……うん。無我夢中だったから……僕も、自分がこんなものを作れるなんて知らなかったよ」
「そうか。いや………とにかく本当に助かった。リリアーナがいるとはいえ、今度こそ死を覚悟した。――で、そのリリアーナはどこに行ったんだ? セシルとグレンは?」
俺が周りを見渡せば、辺りはしんと静まり返っていて……否、商隊の先頭で、何やら騒がしい音が聞こえる。
馬たちも落ち着きがない。
いったい何が起きたのだろうか。
俺が説明を求めると、ユリシーズは途端に顔を曇らせる。
そして、信じられないようなことを言った。
「魔物だよ、アレク。魔物が出たんだ」――と。