転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
7.グレイ・ウルフの群れ
”魔物が出た”――その言葉に、俺の頭は真っ白になる。
「――は? 魔物? そんな……だってここはまだ……」
「国境じゃないって? でも間違いないよ。僕もこの目で見たから」
「――ッ」
「僕、前に話したよね? 瘴気は聖下の加護で浄化されてるって。確かにこの辺りの川は運河に繋がってるけど、その水のほとんどは北の山脈から降りてきたものだんだ。つまり、リル湖の水はほとんど含まれていない。聖下の加護が直接及んでいないんだよ。普段は地方神官が浄化してくれているけど、今はその手も足りてない。いつ魔物が出てもおかしくない状況なんだ」
「ってことは……ほんとに魔物が出たってことなのか? しかも今、三人が戦ってるって?」
「だからそう言ってるだろ。しかも出たのはグレイウルフだ。グレンが言うには、元はハイイロオオカミだろうって。数は十五頭ほど。商隊に怪我人も出てる」
「――っ」
――グレイウルフとは、瘴気に当てられ魔物と化したオオカミの通称だ。
尚ハイイロオオカミとは、寒冷地の森林地帯や山岳地帯に生息している狼で、体長は一メートル五十センチほど。
狼の中では大人しい部類なのだが、瘴気を吸って凶暴化した……ということか。
(なんてことだ。俺が気絶している間に、そんなことになっていたなんて)
俺が茫然としていると、ユリシーズに肩を叩かれる。
「アレク、行くよ! 僕たちも戦わなきゃ」
「あ……ああ!」
とにかく、最善を尽くそう――。
俺は覚悟を決め、ユリシーズと共に先頭の馬車へと急いだ。