転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 ◇


 現場に駆け付けると、そこには数名の負傷者とその手当をする隊員たち――そして、グレイウルフと戦うグレンがいた。
 グレンは商隊を庇うように、こちらに背を向けた形で狼の群れと対峙している。

 グレンの周りには既に十頭以上の狼の死骸があった。死骸の四肢の切断面が焼け焦げているのを見るに、倒したのはグレンで間違いない。

 グレンの構える剣の色が赤く染まり、その周りの空気が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている。
 あれはかなりの高温だろう。


「グレン! 状況は!?」
「リリアーナとセシルはどこに……!?」

 俺たちがグレンの背中に向けて叫ぶと、グレンは「遅い」と言いたげに舌打ちした。

「二人は森だ! 瘴気を浄化すると言って森の奥へ入っていった! 二分前のことだ! 早く二人を追え!」
「――森!? 森って……周り全部森だぞ! 方角は!?」
「東だ! リリアーナは東に強い瘴気を感じると言っていた! ――が、よく聞け! 殿下は剣の腕はからっきしなんだ! 接近戦になれば勝ち目はない! 俺が行くまでお前たちがフォローしろ!」

 グレンの罵声にも近い声に、俺とユリシーズは頷き合う。

「わかった、任せろ!」
「グレンも、気をつけて……!」


 こうして俺たちはグレンを残し、森の奥へと駆け出した。
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