転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
◇
俺たちは森の中を、東に向かって全速力で駆け抜ける。
この森は針葉樹林だ。木の生え方はまばらで、太陽の日差しは十分すぎるほど。
つまり、比較的見通しがいいということだ。二人を見つけるのはそれほど難しくないだろう。
――と最初は思っていたのだが……。
五分ほど走ったところで、現実は甘くないことに気付く。
先に進むほど、何やら視界が暗くなってきたのだ。
「ユリシーズ……この黒い霧って……」
隣を走るユリシーズに同意を求めると、彼は「うん」と頷いた。
「瘴気だろうね。段々濃くなってる。お互いの姿を見失わないようにしないと」
「そうか。これが瘴気……。なんていうか、やっぱりちょっと不気味だな。吸っても大丈夫なんだっけ」
「うん、僕たちは普段からリル湖の水を接種しているからね。運河周辺に生息する動物たちが魔物化しにくいのも同じ理由だ。――でも、四大都市の外側に住む人たちはそうじゃない。商隊の人たちは都市を行き来しているから大丈夫だと思うけど、それだって確証はない」
ユリシーズの顔が暗くなる。
きっとユリシーズは、瘴気を吸った人間がどうなるのかを知っているのだろう。
「あの、さ。ユリシーズ……」
――それが気になった俺は、ユリシーズに尋ねようと口を開きかける。
が、そのときだった。
突然前方に何かの気配が現れ、俺たちは足を止める。
そして目を凝らすと、そこにはグレイウルフがいた。
先ほどグレンと対峙していた奴か、それとも別の個体か……。
わからないけれど、とにかく、グレイウルフは魔物の象徴ともいえる赤い瞳で、俺たちを強く威嚇している。
「――ユリシーズ……二頭いるぞ」
「ああ。わかってる」
さっきグレンが戦っていた数に比べれば圧倒的に少ないが――。
と思いながら周囲の様子を確認すると、前だけではない。なんと後ろにもいるではないか。それも、三頭も……。
(え? じゃあ合わせて五頭ってことか? いやいや……急に五頭とか無理だろ)
言っておくが、俺たちは正真正銘の戦闘初心者だ。ここまでだって特に戦闘なしで来てしまったし、ウサギ一匹殺したことはない。
それなのに、急に狼を相手にしろと? それも魔物化した?
(流石に荷が重すぎる……)
俺たちは森の中を、東に向かって全速力で駆け抜ける。
この森は針葉樹林だ。木の生え方はまばらで、太陽の日差しは十分すぎるほど。
つまり、比較的見通しがいいということだ。二人を見つけるのはそれほど難しくないだろう。
――と最初は思っていたのだが……。
五分ほど走ったところで、現実は甘くないことに気付く。
先に進むほど、何やら視界が暗くなってきたのだ。
「ユリシーズ……この黒い霧って……」
隣を走るユリシーズに同意を求めると、彼は「うん」と頷いた。
「瘴気だろうね。段々濃くなってる。お互いの姿を見失わないようにしないと」
「そうか。これが瘴気……。なんていうか、やっぱりちょっと不気味だな。吸っても大丈夫なんだっけ」
「うん、僕たちは普段からリル湖の水を接種しているからね。運河周辺に生息する動物たちが魔物化しにくいのも同じ理由だ。――でも、四大都市の外側に住む人たちはそうじゃない。商隊の人たちは都市を行き来しているから大丈夫だと思うけど、それだって確証はない」
ユリシーズの顔が暗くなる。
きっとユリシーズは、瘴気を吸った人間がどうなるのかを知っているのだろう。
「あの、さ。ユリシーズ……」
――それが気になった俺は、ユリシーズに尋ねようと口を開きかける。
が、そのときだった。
突然前方に何かの気配が現れ、俺たちは足を止める。
そして目を凝らすと、そこにはグレイウルフがいた。
先ほどグレンと対峙していた奴か、それとも別の個体か……。
わからないけれど、とにかく、グレイウルフは魔物の象徴ともいえる赤い瞳で、俺たちを強く威嚇している。
「――ユリシーズ……二頭いるぞ」
「ああ。わかってる」
さっきグレンが戦っていた数に比べれば圧倒的に少ないが――。
と思いながら周囲の様子を確認すると、前だけではない。なんと後ろにもいるではないか。それも、三頭も……。
(え? じゃあ合わせて五頭ってことか? いやいや……急に五頭とか無理だろ)
言っておくが、俺たちは正真正銘の戦闘初心者だ。ここまでだって特に戦闘なしで来てしまったし、ウサギ一匹殺したことはない。
それなのに、急に狼を相手にしろと? それも魔物化した?
(流石に荷が重すぎる……)